拍手限定SS018 あきら様×白石 くっつかない雲と雲(鬱展開注意)

…最悪だ。
またやってしまった。
また彼女を泣かせたのだ。


彼女は俺にに背を向けて、
体育座りで鼻をかんでいる。


俺は、というと、
何でこんなことになってしまったのか、
壁に寄りかかって酒を飲みながら考えていた。


今日の酒は、
ゆず酒のロックだ。いいだろ?


どうも最近まで知らなかったんだが、
俺が彼女と結婚してから、どうも俺は変わってしまったらしい。
さっき、そういう風に彼女が言ってたから
きっとそうなんだろう。


どう変わったのかをきいても、
「全部」としか答えない。
俺は、変わっていないつもりだ。
10年前と、なにも。
変わっていない、はずなんだ。


だから、俺はその背中に、俺の体をくっつけた。
そうして欲しそうな背中だったからさ?
いいだろ?
この女は、俺のものなんだから。


「やめてよ…」
「なんで」
「やなの。もうやなの…」


後ろから抱きしめる。
その小さな体が強張るのが分かる。
でも俺は気にしない。


すこし強引なほうが、この人は好きなんだから。


俺は首筋に噛み付いた。
「痛い」と声がする。
また、泣き出す。
だから女は嫌いなんだ。


「どうして!!」


彼女は俺に羽交い絞めにされながらも叫ぶ。
刹那、鏡に映る俺と、目が合う。


「そんなに、変わってしまったの…」


頬にできたいくつもの涙の跡。
でも俺は見ないフリ。


「もっと、優しかったのに…!」
「…っるさい…黙れ…」
「白石は、もっと、もっと優しかったのに!どうして!!」
「昔とは、もうちげぇんだよ!」
「なんで変わっちゃったのよ!!!」


俺は彼女の体をゆっくり離す。
いつも無理矢理に襲う俺の行動の変化に驚いたのか、
彼女の目が見開かれた。


自嘲する。
俺は最低な男だ。
あぁそうだ、変わってしまったさ。
大好きだったはずなのに。
あんなに愛していたのに。


俺は、どうして。
彼女を悲しませているんだろう。


彼女を1日中、好きにして、
俺の好きなように遊んで、
彼女が嫌がっても、何しても、
俺は彼女の体を、隅まで弄んで。
それの何が悪いんだと思っていた。


彼女から離れる。
横に、ちょっとの間を空けて座る。
俺は彼女の頬に手を伸ばす。


払われる。
彼女はおびえる。
また、襲われると思わせてしまったんだろう。


彼女の顔を久しぶりにゆっくり見る。


今気がついた。
俺は、彼女の笑顔を奪っていった。
あのころの彼女の面影は、
今見ても、どこにも感じられない。
彼女の顔は疲れきっている。
一緒にラジオをやっていたころとは、大違いだ。


「どう…したの…?」


彼女の悲しそうな声を聞きたくなくて、
俺は彼女を押し倒して、その唇を自らの唇でふさぐ。
舌に噛み付かれる。血が流れる。
それでも構わない。


昔を思い出したくて、
昔と同じようになりたくて、
昔に戻りたくて。
俺はできるだけ優しく、彼女を抱いた。
でもその方法すら思い出せなくて。
泣きじゃくる彼女の涙を、俺は拭いてあげる。
でも、何も思い出せない。
昔もこうしてたはずなのに。
彼女が無理矢理入れられる痛みに悲鳴を上げる。
俺は驚いて、行為を中断させる。
この声を毎回聞いていたはずなのに、
俺は何をしていたんだろう。
どうしてもっと早く、こうしなかったんだろう。


彼女に一言わびてから、
ベランダに出る。


まだ、午後3時だ。
俺は空を見上げる。
あのくっつかない雲と雲は、
まるで今の俺たちみたいで。


その雲がつかめそうで、
俺は手を伸ばした。
彼女の心もつかめそうで、
なにか、昔の想い出も掴めそうで、
できる限り、手を伸ばした。


身を乗り出す。


酔ってるせいか、
ふらり、と体が揺れる。


後ろから呼び止められる。


「白石、なにしてんの…」


振り返って、ちょっと笑う。


「ちょっと、あの雲を捕まえてきます。」
「ばか、ちょっと、」
「いってきます…じゃあね、あきら様…」


身を乗り出したら、
背中が暖かくなった。


「ダメ、いっちゃ、だめ…」
「……。」


こんな「僕」がいても、仕方ないでしょう?
「僕」は壊れてしまったんだから。


「僕なんて、居ないほうが、良いでしょう?」


死んでしまったほうが、貴方も楽になるんだから。


彼女を振りほどいて、
一度、優しくキスをする。



「さようなら。」



僕は、俺を殺すために。
彼女の中の俺を消したくて。


精一杯笑って、
自分の身をベランダから放り投げる。


体が軽くなって。


彼女の悲鳴が聞こえる。
同時に、


体全体に痛みが広がる。
生暖かい、


赤いものが、



あ、あきら、様…?




うして、




泣いて



いる



  の。